宮本ともみ監督——「選ばない仕事」の覚悟

神戸が沸いた年に、先陣を切った女性監督——INAC神戸レオネッサ 宮本ともみ監督


2025/26シーズン、神戸は特別な年だった。

男子プロバスケットボールB2リーグの神戸ストークスが優勝を果たし、ラグビーのコベルコ神戸スティーラーズも優勝争いに名乗りを上げ、J1リーグのヴィッセル神戸も西日本で上位を走る。街全体がスポーツの熱気に包まれるなか、その先陣を切って最初にタイトルを手にしたのが、INAC神戸レオネッサの宮本ともみ監督率いるチームだった。

「めちゃくちゃ意識していました。ストークスの応援にも行かせてもらいました」

他競技の動向を日頃から細かくチェックし、試合会場にも足を運んで直接応援する。競技の垣根を越えた熱気から刺激を受けながら、宮本監督自身も神戸スポーツの一員として戦っていた。


INACが神戸勢の中で最も早く頂点を射止めたことについて、「すごく気が楽になった」と安堵しつつ、こう続けた。「他のクラブに、ちょっとプレッシャーをかけられたんじゃないかな」と笑った。神戸のファンには「誇りに思ってもらえたら嬉しい」という言葉に、地域への深い思いが滲んだ。


「ものすごく静かだった」——雰囲気から変えた

就任1年目。最初のトレーニングで宮本監督が感じたのは、静寂だった。

「ピッチの外だったら喋る子がピッチの中では黙々とやっている。ものすごく静かだなと思ったので、声を出せというよりかは自分が1番出そうと思いました」

笑顔を見せ、いいプレーには率先してオーバーなリアクションをする。スタッフにも同じことを求めた。「そういうのを出していいんだという雰囲気を作るのを自分自身も心がけた」。1ヶ月ほどで、チームの空気は変わり始めた。目指したサッカーの中核は明確だった。「得点をたくさん取るサッカー」。攻撃でも守備でも、常に前方向へ出力を出し続けること。その一貫したビジョンが、選手たちの矢印を揃えていった。


「迷いが伝わっていた」——正直な自己分析

シーズンのターニングポイントを問われた宮本監督は、開幕のベレーザ戦を挙げた。「内容も結果もしっかり出て、チームの矢印の基準ができた」と振り返る。しかし、皇后杯決勝の前後は苦しかった。「このままでは勝てないんじゃないかという私の迷いが選手たちに伝わっていたなと思っていて」。そこから原点に立ち返るきっかけになったのが、アウェイでの西が丘ベレーザ戦の勝利だった。


監督という立場の難しさを、宮本監督は就任1年目で骨身に染みて学んだ。

「選ぶ仕事かと思っていたけど、選ばない仕事の方が多いなというのは1番の学びでした。これもあれもやりたいというのを捨てていった方が良かった」

この「捨てることの苦悩」について、日本代表の森保監督も同様の言及をしていることを問うと、「本当にそうです」と強く同調した。日本代表の指揮官と同じ境地——WEリーグの監督が立つステージの高さを、この言葉が静かに証明していた。


「優勝していない男性監督の方が多い」——女性監督論を一刀両断

WEリーグ史上初のタイトルを獲得した女性監督。その歴史的な意義について問われると、宮本監督はあっさりと言い切った。

「女性の指導者を増やしたいという気持ちや、先駆者になってやるぞみたいな気持ちは全然ない」

そして、こう続けた。「優勝していない男性の監督の方が多いですし。今年12チームの監督の中で1番得点を取って勝ち点を積み上げられる監督でありたいと思いながらやってました」

気負いも特別意識もない。ただ、勝つことだけを考えていた。それでいて、「自分の活躍がそういった方たちの力になるんだったら嬉しい」とも語る。現役選手が指導者を目指すきっかけに、クラブが女性を登用する契機に——その波及効果への期待は、静かだが確かにあった。


「全然そんな感じもなかったので」——息子のサプライズ

アウォーズ当日、ステージに息子さんがサプライズ登場した。

「昨日も連絡を取っていたので全然そんな感じもなかったので、すごいびっくりして」

元チームメイトかINACのOBかと思っていたら、自分の家族だったと笑う。今は関東の大学に通う21歳。「結果が出ない時も変わらず応援してくれたのはすごく力になりました」

ピッチでは誰より勝利を貪欲に追い求め、チームを鼓舞し続けた指揮官が、この瞬間だけは「めちゃくちゃ感動しました」と破顔した。

監督業とは「選ばない仕事」だと悟った1年目に、リーグ優勝をもぎ取った。神戸のスポーツシーンの先陣を切り、女性指導者の新しい景色を切り拓いた。しかし本人は至ってシンプルだ。

「今年12チームの中で1番勝ち点を積み上げた監督でありたかった」

その言葉の重みが、全てを語っている。



Photo Courtesy of ©WE LEAGUE

取材:Tomoyuki Nishikawa / SportsPressJP 

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