木下グループジャパンオープン男子シングルス1回戦(10月1日・有明コロシアム)で、錦織圭はフランシス・ティアフォー(アメリカ)に敗れ、現役最後の公式戦を終えた。試合後の会見では、言葉を選びながら19年間のプロ生活を振り返った。
「サーブもリターンも、リズムが合わなかった」
まず試合について聞かれると、錦織は悔しさを隠さなかった。
「そんなに良くなかったので、悔しさは残ります。サーブの入りとリターン、ストロークもリズムが合わない場面が多くて、ミスヒットが多かったです」
ベンチで襲ってきた喪失感
試合が終わった瞬間は、それほど感情は動かなかったという。気持ちがあふれたのは、ベンチに座ってからだった。
「この20年、30年積み上げてきた財産みたいなものが、銀行に大量にあったお金が急になくなったような喪失感が、ぶわっと襲ってきました。知識や経験は誰かに共有したりコーチしたりできるので、実質ゼロになるわけではないんですけど、本気でプレーするテニス人生はこれで終わりなのかと」
さらに錦織はこう続けた。
「大半の人は、人生の最後までキャリアを積み上げていく。40歳、50歳でさらに上に行く人もいる。それが36歳で一度終わるんだなと。ここまで苦労して頑張ってきたものを手放すのか、という思いがありました。それに、今日の内容じゃ終われないな、という気持ちも大きいです」
「よく頑張ったと思う」
キャリア全体については、誇りと後悔の両方を口にした。
「1つのことに人生をかけて、いろんなことをはねのけて努力できたことは誇りに思います。正直、別に好きでもないアメリカに行って、テニス人生のためにすべてを注いできた。自分ではいい選択ができたと思います。怪我が多かったので、そこをどうにかできなかったかという後悔はたくさんあります。もう1試合勝っていれば人生が変わった、という試合もたくさんあった。それでも、よく頑張ったなという思いは強くあります」
「正直、もうちょっとやってもいいかな」
全盛期なら届いていたボールにも話が及ぶと、本音がこぼれた。
「正直、もうちょっとやってもいいかなという気持ちが、今ちょっと出てきてるんですよね。絶対やらないですけど(笑)。昔なら簡単に取れて、守りのボールを攻めに変えられるくらいの動きがありました。でも体と気持ち、忍耐力がたぶん追いついてこない。……まあ、年末のチャレンジャーは考えようかな」
修造さんの涙で「加速しました」
涙を流すとはまったく思っていなかったという。
「今朝センターコートで練習していたら、ドリカムの曲が流れていて、一滴ぐらい垂れそうにはなりました。でも試合前もそんなに緊張はなかったんです。試合後に泣いたのは、これは修造さんのせいなんですけど、修造さんがめちゃくちゃ泣いていたので、もらい泣きしました。僕のキャリアは修造さんから始まったようなものなので。修造さんのせいで涙が加速しました」
20代の頃は年に2回ほど、負けて泣いていたとも明かした。
「ツアーファイナルで負けて、部屋で号泣したりしていました。いい大人が(笑)。その悔しさを反動にして練習を頑張れたし、諦めずに試合ができた。今日も、最後の試合なのにトップ10に入るくらい悔しい終わり方でした」
後に続く選手が少なかった悲しさ
アジアのテニスを取り巻く環境について聞かれると、厳しい現実を語った。
「アジアは、どこを取ってもヨーロッパに比べてレベルが低い。移動には時間がかかるし、時差もある。練習相手もコートも、日本は特に少なくなっている。コーチの量も質も違う。今の状況だと、外に出るしかないのかなと思います。数年でどうこうなる話ではないので」
そして、こう付け加えた。
「ちょっと悲しいのは、自分がトップ10にいた時に、後ろについてくる選手が、西岡(良仁)君とかはいましたけど、少なかったこと。その悲しさは正直あります」
「あと5cm背が高かったら」
最後に、自分にもし何か1つあったなら、という質問には笑いを交えて答えた。
「1番は、あと5cm背が高かったら。今の僕の身長でトップのトップに行った人は数えるほどしかいない。パワーテニスになってきているし、この体で強打すると負担がかかる。でも、小さい選手でも工夫すれば勝てるのがテニスの面白さでもあるんですけど」
そして、少し考えてから付け加えた。
「変えられるなら、身長180cm以下の選手は2、3歩前からサーブを打てて、打ったらAIの工夫でシュンとベースラインまで戻る、みたいなのができれば1番いいかなと思っていました(笑)」
エキシビションなどでプレーを見る機会について聞かれると、「1週間後にも、12月にもある」と答えた。ただし、本気の試合とは緊張感がまったく違うと強調した。「楽しむという面では、ちょくちょくやるかもしれないですね」
19年間のプロ生活に、錦織圭は笑顔で区切りをつけた。
Photo by Junko Sato / SportsPressJP
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