「理想的な価値をすべて体現した」長崎ヴェルカ

2025-26シーズン、Bリーグに革命が起きた。

長崎ヴェルカ。B1昇格からわずか3シーズン目、チャンピオンシップ初出場にして初優勝。この快挙は「奇跡」と呼ばれている。だが、一歩踏み込んでみると、そこには全く違った景色が見えていた。

これは奇跡ではない。必然だった。


「HAS IT!」という設計思想

長崎ヴェルカには、創設当初から一貫したフィロソフィーがある。

HAS IT!――Hard(ハード)、Aggressive(アグレッシブ)、Speedy(スピーディ)、Innovative(革新的)、Together(一体感)の頭文字を並べたこの言葉は、単なるスローガンではない。クラブの骨格そのものだ。


当時のBリーグには「ビッグマンがゲームを支配する」というセオリーがあった。長身のセンターを核に、フィジカルで圧倒する。多くのクラブがそのセオリーに従った。


長崎ヴェルカは従わなかった。

5人全員がポジションレスに連動し、コート全体にプレッシャーをかけ続ける「ヴェルカスタイル」を、誰に何と言われようと貫き通した。ヘッドコーチのモーディ・マオール氏は語る。「クラブのフロントから選手、スタッフに至るまで全員が強い情熱を持って戦ったからこそ、本当に完成されたチームになれた」。

これはバスケットボールの話ではない。組織論の話だ。


アップル、スターバックス、良品計画――そして長崎ヴェルカ

ビジネスの世界に「パーパス経営」という概念がある。利益を最優先するのではなく、存在意義(パーパス)や理念を徹底的に追求した結果として、後から利益がついてくるという考え方だ。


アップルは「違う考え方をしよう(Think Different)」という哲学を貫いた結果、世界最大の企業になった。スターバックスは「サードプレイス(第三の場所)」という理念を追求した結果、世界中にコーヒー文化を広めた。良品計画は「これでいい」という引き算の美学を信じた結果、グローバルブランドになった。

長崎ヴェルカは、スポーツ界でそれを証明した。


勝つために理想を曲げたクラブではなく、理想を追求し続けたクラブが頂点に立った。創設6年目の、地方の小さなクラブが。


勝利は「絆」の副産物だった

ファイナルMVPに輝いたイ・ヒョンジュン選手はこう語った。「強固な信頼関係があったからこそ、最高の結果を残すことができた」。


そして馬場雄大選手の言葉が、このチームの本質を最も雄弁に語っている。「狩俣さんのために毎日を過ごしてきた」。狩俣昌也選手。クラブの初期メンバーであり、今シーズン限りで引退を表明していたベテランだ。優勝が決まった瞬間、馬場選手は狩俣選手にウィニングボールを手渡し、抱擁を交わした。


トップアスリートが個人の栄光より「誰かのため」を原動力にできたとき、チームは最強になる。長崎ヴェルカが示したのは、そういうことだ。勝利は目的ではなかった。勝利は、最高のチームであろうとした結果として生まれた副産物だった。


77億円が示す「本当の利益」

今シーズン、長崎のハピネスアリーナではオールスターゲームが開催された。経済波及効果は約15.5億円。しかしそれを遥かに上回る、約77.3億円の「社会的価値」が生み出された。

この社会的価値には、長崎市のブランドバリュー向上、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の醸成、そして観戦者の95.2%が感じた「ウェルビーイング(幸福度)」が含まれている。経済効果の約5倍。この数字が示しているのは、スポーツの本当の価値は経済的な利益ではなく、人々の幸福度にあるということだ。


馬場選手は優勝後、長崎のファンにこう語りかけた。「あなたたちがいたから優勝することができました」。クラブとファン、クラブと地域。その関係が「共創」になったとき、生み出される価値は経済的な数字をはるかに超える。


長崎ヴェルカが証明したこと

整理しよう。長崎ヴェルカは、セオリーに従わなかった。勝利を最優先しなかった。大都市ではなく、地方の長崎を選んだ。それでも頂点に立った。

戦術的革新(HAS IT!という設計思想)、チームの絆(狩俣選手への想い)、地域との共創(77億の社会的価値)――プロスポーツクラブが持つべき理想的な価値を、すべて体現した。これはBリーグの話にとどまらない。理想を追求すれば、結果は後からついてくる。


アップルが証明し、スターバックスが証明し、良品計画が証明してきたことを、2025-26シーズン、長崎ヴェルカがスポーツ界で証明した。


来シーズン、BリーグはB.LEAGUEプレミアへと移行する。新たなステージで、長崎ヴェルカはどんな「理想」を追求するのか。その答えを、コートの上で見せてくれるはずだ。

文:Tomoyuki Nishikawa / SportsPressJP 

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